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スンバワ島旅日記 PART 1

PLAYERS : MASAKI HARADA

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原田 正規
MHASAKI HARADA

 

スンバワ島旅日記 PART 1

 

ワールドクラスのグッドウェイブを狙い、ハイシーズンのインドネシアへ。純粋なサーフィン。ただ波を求めた日々を、原田 正規が綴る。

 

文、写真(フィルム):原田 正規
写真:飯田 健二
編集:高橋 淳

DAY 1:思いもよらぬ、遠まわりの幕開け

 

バリ島から、今回の目的地スンバワ島までは国内線でおよそ1時間。あっという間の空の旅だ。プロペラ式の小型ジェット機に不安を感じながらも、上空から島を見下ろし、町やブレイクする波を見つめるとワクワクしてきた。到着が待ち遠しかった。

 

事前情報では、スンバワ島の国内線ターミナルから車で2時間と聞いていた。空港に降り立ち、さっそくタクシーを手配してドライバーに行き先を告げる。

 

「レイキーピーク? 5時間くらいだね」

このとき、午前11時。どんなに順調でも、現地に到着するのは夕方5時だ。とはいえ、向かわなければどうしようもない。道中の会話で理由がわかった。ドライバーいわく、わたしたちはどうやらターミナル選びを間違えていたらしい。チケットを取ったのは、スンバワ島の西側、ロンボク島に近い空港だったのだ。目的のレイキーピークからは、島の反対側に位置していた。

 

そんなこといまさら。気分はもうレイキーピークだ。取り乱してもしかたない。車窓に広がるスンバワの田園風景を楽しみながら、途中でドライバーと一緒にローカルな魚料理を食べるなどして、思いがけない長旅をそれなりに楽しんだ。カラフルな家々に、絵になる古い建物。今も昔も変わらないインドネシアの街並みを眺めながら、もし自分がここで育っていたら、どんなふうに生きていたのだろうと想像する。のんびり過ごす人たちや、自然とともに群れる牛や山羊の姿が、なんだかうらやましく映った。

レイキーピークに着いたのは、日がとっぷり暮れた18時すぎ。あたりはすでに真っ暗だった。気を取りなおし、シャワーを浴びてから近くのレストランへ。メニューは豊富だったが、長時間座っていただけの一日だったので、軽めにパスタを選んだ。

宿に戻ると、ボードケースからサーフボードを取り出し、フィンをセットしてリーシュを取りつける。お気に入りの音楽を流しながら、イメージを膨らませつつストレッチをして過ごすこの時間は、まさに至福のひとときだ。明日はどこでサーフしようかと想像すると、幸福感に満たされ、内側からエネルギーが湧き上がってくる。ほかのことは何も考えず、ただ心と体を整えていく。そして翌朝に備え、早めに床についた。

DAY 2:初めてのスンバワの波、ペリスコープベイへ

 

前日の長いドライブを経て、ようやく迎えたスンバワの朝。あいにく、外は雨だった。空はどんよりと重く、雨音が宿の屋根を叩いていた。「まあ、今日はまだ始まったばかりだ」と自分に言い聞かせて、しばし部屋で待つことにした。

 

雨がやんだのは7時半ごろ。雲の切れ間から差し込んだ光が、地面を濡らした緑を静かに照らしている。行き先は、ペリスコープベイに決めた。その名のとおり、潜望鏡でのぞいたように視界が開けるその湾には、レギュラーオンリーの美しいポイントブレイクがあるという。

ペリスコープベイには、想像どおりのグッドウェイブが立っていた。ニューボードにワックスを塗り、急いでタッパーとトランクスを身につけてゲッティングアウト。だが、海に入ってすぐ、一筋縄では行かないことを知る。海全体の潮の流れが強く、波の押し寄せ方が津波のようでブレイクが速い。「これがここの波か」と雰囲気を探るように波に乗り、軽く1ラウンドだけこなした。

海から上がると、南国特有の心地よい気だるさが体を包んだ。スンバワ島での初サーフィン。すでに、またここを訪れたいという気持ちになっている。半径5キロ圏内にバリエーション豊かな極上のスポットが点在する、まさに夢のような島だ。

 

アフターサーフィンは、大原 遊さんのもとを訪ねた。遊さんとは、以前オーストラリアで出会った。そのとき、わたしは初のオーストラリアトリップ中で、まだプロサーファーになったばかりの19歳だった。なんと、30年ぶりの再会だ。彼が運営する宿「ハッピーホーム」は、わたしたちの滞在先から近く、レイキーピークを目の前に望む絶好のロケーションにある。インドネシア風の建物だが、きれいでのどかな場所に建つ、すてきな宿だった。またスンバワ島を訪れる機会があれば、ぜひ宿泊したい。

夕方、レイキーピークをチェックする。だがオンショアが吹き、人も多く、撮影をする気分にはなれなかった。明朝はふたたび、ペリスコープベイを目指す。

DAY 3:アレックス・ノストとセッション

 

朝の光が部屋に差し込む前から、サーフボードとトランクス、タッパーを抱え、バイクでペリスコープベイへと走る。昨日の雨が嘘のように、空は雲ひとつない快晴だった。

 

ペリスコープベイに到着し、海を眺める。波のサイズは頭から頭半。風もなく、ブレイクは昨日よりもはるかにクリーンだ。コンディションは申し分ない。だからだろう。早朝にもかかわらず、すでにアウトには数十人のサーファーがラインナップしている。昨日味わった強烈なカレントに負けないよう、わたしは少し長めの6’4″を選んだ。

パドルアウトを始めてすぐ、見覚えのあるサーファーに気づいた。カリフォルニアのトッププロサーファー、アレックス・ノストだった。おたがい少し長めのラウンドノーズのボードだったからか、数本乗るうちに目が合い、軽くあいさつを交わすと、向こうも笑顔を返してくれた。彼はすでにバリに1か月滞在していて、スンバワに来てから4日目らしい。ほかのサーファーとはサーフィンのスタイルがまったく違う。まるでダンスをしているようで、一つひとつの技に個性があった。

朝のラウンドを終えると、ホテルに戻ってひと息。軽く朝食をとり、体を休めた。そして、多くのサーファーたちがランチタイムに入りそうな昼前にレイキーピークへ向かう。まずはレギュラーの波に何本か乗った。セットはダブル近いサイズがあるが、風が入っていてあまりよくない。そう思いきや、レフトへ乗ったとき、その景色は一変した。

 

「まるでパイプラインだ」

ものすごい勢いでピークから掘れ上がる波の懐にバックサイドで滑り込み、1本だけチューブをいただいた。人が多く、セットの波に乗るのはかんたんではない。それでも、ローカルとビジターが混在するラインナップの空気を読み、待って、待って、本当に「行く」ときだけ気持ちを見せる。そうすれば、波をつかめる。

 

レイキーピークは、スマイリーでハッピーなポイントだ。まさにパイプラインのようないい波で、ひさしぶりに心から楽しいと感じるセッションだった。

DAY 4:リーシュが切れて危機一髪

 

まだ空がうっすら青みがかったころ、わたしはすでにボードを抱え、レイキーピークに向かっていた。

 

早朝のレギュラーは、映像や写真になったときに、海の美しさとパフォーマンスが際立つ順光になる。ブレイクの手前にあるタワーは絶好の撮影スポットだ。

 

波は4〜6フィート。ハイタイドで水が多く、ややタルめだが、ときおり入るセットの波は分厚いリップが飛んでいて迫力がある。シリアスなコンディションに気合が入る。

入ってすぐにセットをつかみ、軽くクルーズ。ハイタイドだが、ピークは掘れ上がっていた。そのまま続けて2本、3本と乗ったところで、沖に出るときにセットをまともに食らった。巻かれていると、ふいに足元が軽くなる。リーシュが切れたのだった。

 

その後も2本のセットを食らながら、岸に向かって泳いだ。なんとかタワーまでたどり着くと、そこにはわたしのボードを抱えた男性の姿があった。ハイタイドだったおかげでタワーの前まで海水があり、さらに運がいいことに拾ってもらえたために、ボードは無傷だった。もしロータイドであれば、ボードがリーフに打ち上がり、クラッシュしていたに違いない。飛んだアクシデントだったが、すこしだけ救われた気がした。

そんなこんなで、このあとは気分が乗らず、深追いせずに町を探索することにした。みんなリラックスしていて、フレンドリーで癒される。インドネシア独特の緩やかなでピースフルな時の流れに乗り、のんびりと過ごした。

夜はカメラマンの飯田さんとビンタンビールで乾杯。ふだんは穏やかな人なのに、飯田さんは終わりなく飲みつづけていい感じ。酒癖悪いなあ(笑)」と思いながら、わたしもビンタンの瓶を空けた。

<つづく>

POSTED : 2025-07-17