文、写真提供:河上 竜平
4度目となる日本開催、そして、関西初となるXゲームズ大阪が6月20日(金)〜22日(日)にかけて行われた。エマにとっては、3度目のXゲームズ出場だ。夢だった舞台にまた出場できるとは、本当に夢のようだ。今回の出場者は計8名。これまでよりふたり少ない。
今大会より、ランについてルール変更があった。それについて説明したい。前回まではセッション形式で、制限時間30分のあいだに順番で滑り、ポイント制で順位が決まる。滑る本数に制限はないが、だいたい5回程度滑ることができる。今回はプレーオフ形式で、ひとり2回滑り、高得点の4名がファイナルに上がる。決勝戦でも各選手が2回ずつ滑り、最終的な順位を決める。いずれのランも、30秒の時間内に約11個のトリックを演技し、技の難易度・完成度・スピード・高さ・トリックの流れなどの要素を見て採点される。ベストトリックについては従来通りのセッション形式で、制限時間20分ひとつのトリックを披露してポイントが決まる。
ランのルール変更があることを知ったのは本番2日前。海外のコンテストでは、ランにおけるさまざまな点が直前に変わることはあたりまえ。柔軟に対応する力も必要だ。エマにルールの変更を伝えたが、とくに気にする様子はなかった。数か月前から大会用のルーティン練習をしていたので、集中すれば、2回あれば問題ないと思ったのだろう。何よりもXゲームズに出場できること自体がうれしいし、大舞台で自分がこれまで練習してきたルーティンを披露したいという気持ちでいっぱいなのだ。
会場の京セラドームでの練習日1日目、今大会より新しくなったバーチカルランプの感触を確かめるために、ウォーミングアップを始めた。滑走面がとても滑らかなうえにグリップもするので滑りやすい。ただしグリップするということは、体が小さいエマはふだんより強く漕がないとスピードが出ない。それでもエマは、「ルーティンはすぐに合わせられる」と言っていた。練習してきたルーティンの前半と後半を分けて試したが、問題なくメイクしていた。課題は、前半と後半のつなぎ。後半で失速しないようにすることだ。
2日目は、ルーティンを通しで練習した。前日の練習では、ウォーミングアップとして軽く滑ってから、ひとつずつトリックをチェックしていった。この日は「もう慣れたから、ルーティンするわ」と、早い段階でルーティンの練習に入った。エマは数本でルーティンを成功させた。やはり、今回のバーチカルは滑りやすいようだ。そして、せっかくXゲームズのバーチカルで滑れるので、大会ではやらない練習中のトリックを試していった。やるだけのことはやったので、あとは本番の成功を願うばかり。
Xゲームズ大会初日。この日のプログラムはランだ。まず1時間の練習とウォーミングアップがあり、そのまま本番に入る。ほどよい緊張感はあったものの、会場の盛り上がりと、Xゲームズならではの雰囲気をエマは楽しんでいる。練習時間になると、本気モード。軽く流してから、ルーティンの練習に入った。ルーティンの前半と後半を分けて行ったが、いずれもほとんどはずさなかった。続いて、ルーティンを通しでやってみると、1本目からメイクした。
「今日は調子がいい。ぜったい乗れるわ」
ついに予選がスタート。エマは決勝用のルーティンを温存していない。出場するスケーターは世界トップクラスのメンツ。予選から全力だ。1本目が始まった。顔つきは真剣そのものだ。10個目のトリックまではクリア。しかし、10個目で若干バランスを崩したため、11個目のトリックは回避した。しかたがない。エマには、たとえ試合でも「タイミングが合わなかったり、バランスを崩したら、無理に乗りに行くな」と伝えてある。正しい判断だ。2本目にかけるしかない。
2本目、どうしても決めたいラストチャンス。フルメイクすれば、決勝に上がれるかもしれない状況だった。ところが、ふだん難なくメイクするキックフリップインディグラブ※1で、まさかのミス。この時点で、決勝戦への道は絶たれた。エマもとてもくやしそうな表情を見せた。どれだけ調子がよくても、どれだけ練習を積んでも、攻めていれば、こういったミスが起こりうることを痛感した。
結果は、6位だった。それでも、このルーティンをXゲームズで成功させるために練習しつづけたことは、確実に次の戦いの糧となっている。「次はルーティンを完璧に乗れるようにがんばろう」と、エマと話し合った。
大会2日目の種目はベストトリックだ。練習時間は1時間。狙うは、フェイキー1080※2。わたしの知るかぎり、このトリックはギー・クーリーしか成功させていなかった。エマは世界で2人目にメイクした。Xゲームズでメイクしたのは、ギー・クーリーだけ。今年の1月にフェイキー1080成功させてから、Xゲームズでのメイクを目標としてきた。だが、着地を成功させたとしても、太腿への負担が大きくて2か月ぐらい練習できなかったり、大会前も足を痛める可能性があったので、練習はしなかった。エマと相談し、練習では、回転の仕方を確かめるだけにして、着地しないで逃がすことにした。本番で「乗れる!」と思ったときだけ着地すればいい。
本番が始まった。エマの滑走順は最初だ。緊張はなく、エマはフェイキー1080だけに集中している。バックスクリーンにエマが映し出され、大歓声を浴びてドロップイン。エアーを何度か繰り返しながら高さを上げて、リズムを整えて踏みきった。しっかりと軸の取れた回転だ。着地時に少し体勢が崩れたが、みごと着地。エマはメイクした。会場がいっきに盛り上がる。エマは、Xゲームズで最年少の1080成功者となった。その後、自分の持ち技を披露し、結果は5位。エマはくやしそうだったが、自分で決めた目標を達成できてよかった。わたしは感無量だった。
この翌週、ソルトレイクシティでXゲームズが行われる。Xゲームズ大阪の翌日にホームのジースケートパークで調整をして、すぐにソルトレイクシティへと向かう。ハードスケジュールだが、エマはとても楽しみにしていた。
※1 空中で前足のつま先を使ってボードを蹴り抜き、背中方向に縦に1回転(フリップ)させながら、体とボードを一緒にお腹側へ1回転させ、デッキの前側を後ろの手で掴むトリック。
※2 ふだんと逆のスタンスで進み、空中で体とボードを一緒にお腹側へ3回転させるトリック。
Xゲームズ大阪のバーチカル出場者は8名。相手は、エマのあこがれギー・クーリーをはじめとする、世界的に有名なスケーターばかりだ
京セラドーム大阪で宙を舞うエマ。フェイキー1080をメイクしたときは、会場から大歓声が上がった
記者会見をする選手に選ばれたエマ。緑の髪とSOSのTシャツがいい感じ
ホームパークの仲間たちが、たくさん応援に来てくれた。やっぱり、仲間の存在は何よりも心強い
大会後は、エマの好きなアウトバックス・ステーキハウスでディナー。今回もよくがんばった
POSTED : 2025-07-07