

PLAYERS : MASAKI HARADA
原田 正規
MASAKI HARADA
Sリーグ・クラマスマスターズ25-26
原田がバリへ向かったもうひとつの理由。それは、Sリーグ・クラマスマスターズへの参戦だった。会場のクラマスは、世界最高峰のワールドツアー、CTの開催地にも選ばれるほどハイクオリティなサーフポイント。会期中には極上の波が姿を現した。
文:高橋 淳
写真:飯田 健二
大会前、最高のサーフトリップ
2026年3月31日から4月4日にかけて、バリでSリーグのコンテストが開催された。雨季から乾季へと移り変わるタイミングのバリ東海岸では、クラマスをはじめとするリーフブレイクが本領を発揮する季節だ。
千葉・志田下で行われた昨年のグランドファイナルが始まる前のこと。原田は「体の調子はいい。あと必要なのは波」と語っていた。しかし、大会当日の波はもも腰サイズのスモールコンディション。原田は本来の持ち味を発揮しきれないまま敗退を喫した。
強靭な足腰を生かしたパワフルかつスタイリッシュな原田のサーフィンは、サイズのある波でこそ真価を発揮する。この時期のクラマスには、そんな波が立つ可能性が高い。原田は万全の体制で大会に臨むべく、1週間ほど前からバリに入った。
その2日後、三原康裕と現地で落ち合った。ふたりは同郷の先輩後輩の仲。だが、大人になってからは一緒にサーフィンをする機会は持てなかった。大会前の数日間、原田と三原はグッドウェイブを求めて島をめぐり、数十年ぶりのサーフセッションを楽しんだ。それが、大会参戦以外のもうひとつの理由だ。

美しいバリの海。ここウルワツは、1970年代初頭、サーフムービー『モーニング・オブ・ジ・アース』によって世界中に知れ渡ったサーフポイントだ

ウルワツのエントリーは、断崖の裂け目を抜けて海へ向かう。そこには、なんとも言えない高揚感がある

カーボンラミネートされた軽量のハイパフォーマンスショートボードを駆り、アグレッシブなカービングで波を刻む三原。チャングーにて

パワーのあるチャングーの波で切れ味を増す原田のサーフィン。自身で削ったピラミッドテールのサーフボードは、ハイスピードでも安定感を失わない

ワルンでひと休み。アフターサーフには自然と顔がほころぶ。「三原さんと一緒にサーフィンをするのは、じつに30数年ぶりのこと。まるで子どものころに戻ったような気分になり、最初は少し照れくささもあった。だが、そんな感覚はすぐに消え、終始楽しくサーフィンすることができた(原田)」
大会がスタート。原田の出番は2日目
サーフィン大会のスケジュールは、波の状況によって当日に判断される。初日の3月31日に行われたのは、参加人数が多いショートボード男女のヒートのみ。大会前日までしっかりとしたうねりがあったが、波は腰〜胸サイズに落ち着いてしまった。
だが期間中に新しいうねりが入る予報だ。原田は、自分の実力を発揮できる波の訪れを静かに待っていた。

大会会場クラマスの全景。黒砂が印象的なエキゾチックなビーチだ

サイズがもの足りなくとも、世界に誇るクラマスの波。そのクオリティは抜群

今大会には男子65名、女子31名がエントリー。そのうち、マスターズの選手は16名。クラマスという特別な舞台に、日本のトップサーファーたちが集結した

翌日に行われるであろうヒートに備え、会場をチェックする原田。隣で話すのはSリーグチェアマンの大野修聖
うねりが届く前にヒート開始
翌4月1日、6時半にスケジュールが発表された。ショートボード男女のラウンド3、ラウンド4のヒート後、マスターズのラウンド1が行われる。新たなうねりはまだ届かず、前日とまったく同じようなコンディションだ。セット※1が入ればいい波だが、時間帯によっては波数が少ない。そこで、ヒート時間が20分から25分に延長された。
原田は第3ヒートにクレジット。対戦相手には、前シーズンのチャンピオン、牛越峰統もいる。波運も左右するシビアな状況に、緊張の色を隠せずにいた。
※1 その日のなかでも大きなうねり。何本か連なって沖からやってくる。本数や周期はコンディションによって異なる。

ヒート直前、コンテストジャージを身につけ、沖で待つべきポジションを見定める原田。張り詰めた表情が、プロの戦いの厳しさを物語る
圧倒的なサーフィンでトップ通過
現地時間9時50分。原田のヒートが始まった。対戦相手はトッププロの牛越峰統と関谷利博、そして昨年マスターズプロとなったルーキーの安部 亙。原田は競り合いを避け、左に離れて波を待つ。開始から4分、いっきに試合が動いた。安部が小ぶりな波を乗りつなぐや否や、原田も波をつかむ。しかし、カービングを一発入れただけで波が続かず、2.50※2というロースコア止まり。続いていい波に乗った関谷が5.50をスコアした。
残り17分、関谷がキレのあるリッピングで5.90というミドルスコアをふたたび出す。牛越、安部も手を出すが、ポイントは伸びない。プライオリティ※3を持った原田はひとり、じっとセットを待っている。時間が経つことおよそ5分。ついに、原田のサーフィンが爆発した。ドライブの効いたターンを2発繰り出し、パワフルなフィニッシュをメイク。このライディングに8.50というエクセレントスコアがコールされた。だがここで、試合巧者の牛越も8.00をスコア。一進一退の攻防は続く。
バックアップを稼ぎたい原田。勝ち越すのに必要なスコアはわずか2.90。関谷は6.00を出し追い上げる。直前のヒートよりもはるかに波数があることが望みだ。そして、ヒート中最大のセットが入ってきた。牛越がプライオリティを使って安部をブロックし、リッピング2発とカービングのコンビネーションで7.0を叩き出しトップに躍り出る。その直後、原田が6.90をスコアし逆転。ビーチから大きな歓声が上がる。順位の入れ替わりが激しい熾烈な状況を制し、1位でラウンド1を通過した。セミファイナル進出だ。
※2 ライディング1本の最高得点は10点。Sリーグの大会ではヒート中のベスト2スコアの合計点で勝敗が決まる。
※3 ヒート中、それぞれの選手に順番に与えられる優先権。ヒート開始直後のプライオリティ(優先権)が誰にもない状態で、最初に波に乗ったサーファーからプライオリティの順位がいちばん低くなる。その後、次のサーファーが乗るとプライオリティの順位が繰り上がっていく。

太いスプレーを上げる圧倒的なサーフィンで勝利し、会場を沸かせた

海から上がってきた原田にすぐさま駆け寄り、激励する三原。たんなるスポーツとしてくくれない自由な魅力をはらむサーフィンだが、ルールに制限されるコンペティションの世界にも大きな感動があることを実感した瞬間

「原田さんのヒートは比較的波もよく見えて、波数もあるように見えました」という勝利者インタビューを受け、原田はヒート中の生々しい思いをこう語った。「海の中ではまったくそんな感じじゃなくて、本当に乗れないまま終わっちゃうんじゃないかなっていう不安との戦いが半端じゃなかったです。最後まであきらめないように気持ちだけは落とさないようにしてました」

三原はこの日がバリ滞在最終日で、夜に帰国した。「三原さんに勝った姿を見せられたことが何よりもうれしかった(原田)」
クラマスの波が炸裂。しかし……
中一日を挟んだ3日にマスターズのヒートが再開。予報どおり新しいうねりが届き、オーバーヘッドサイズの波がブレイク。潮のいい時間帯には長いチューブもある、クラマスのザ・デイとなった。午前9時ごろからマスターズのセミファイナルがスタート。潮が上げてきて、次々とセットが押し寄せている。直前のショートボード男子のヒートでは、何本ものチューブライドが見られたほどの絶好のコンディションとなった。
ヒートの時間は20分。原田の相手は、盟友の遠田真央、そしてカレントリーダーの山田桂司、パワーヒッターの東川泰明。口火を切ったのは、遠田だった。カービング2発からきわどいフィニッシュをメイクして7.00をスコア。そして4分を過ぎたころ、原田が小さめの波ながらドライブの効いたターンを繰り出し4.25。そのスキルの高さに、ライブ解説を務める田嶋鉄兵は言う。
「かなりキレのあるサーフィンしてますね。いい波に乗るのが楽しみです」
山田、東川、遠田が立て続けに波に乗ってミドルスコアで固めていくなか、原田は海と呼吸を合わせ、ベストウェイブをじっと待つ。コンテストでもフリーサーフィンでも変わらない原田のスタイルだ。残り12分、ついに来たオーバーヘッドの波にテイクオフ。だが、ボトムターンの際にワイプアウトしてしまう。ふだんの原田ではありえない。そして、波は途切れない。残り5分。プライオリティは原田にあり、ヒート通過に必要なスコアは7.60。厳しい状況ではあるものの、この日の波、原田であれば十分に逆転可能だ。
「僕がほかの選手だったら、今のこの状況はかなり怖い」
そう実況する田嶋。観客も原田の1本に期待している。残り3分、サイズのあるセットの2本目を原田がつかんだ。波のポケットで力強いスナップ、大きなカットバックを決める。だが、フィニッシュで痛恨のワイプアウト。次々とほかの選手が波に乗り、残り1分、原田がプライオリティを持っている。波さえ来れば……。しかし、ここで無情なホーンが鳴り響いた。セミファイナル敗退。それでも、その日クラマスで見せた原田のサーフィンは、多くの人の記憶に残るものとなった。●

今回のバリに向けて、オリジナルデザインのボードを2本自作してきた原田

パーフェクトなクラマスの波。日本ではなかなかお目にかかれない波質の高さだ

気迫みなぎるヒート前の姿

「原田選手はサーフィンのスタイルが格好いいんですよね」と、実況していたトッププロの田嶋鉄兵を言わしめた豪快なターン。原田には、超一級の波がよく似合う
POSTED : 2026-05-14