

PLAYERS : EMA KAWAKAMI
河上 恵蒔
EMA KAWAKAMI
十一歳の夏
Part 2
Xゲームズ千葉2026で念願の金メダルを勝ちとったエマ。夢を叶えるため、父・竜平とともにどんな練習を重ねてきたのか。体の成長と滑りの変化、新しいトリックの覚え方について、ふたりに聞いた。
文:髙橋 淳(@thinkwastyle)
写真:髙橋大介(@daisuketakahashi)
SOUND OF SUNRISE(以下、SOS):エマくんは小学6年生で、本格的にスケートボードの大会に出るようになってから約3年。体もどんどん大きくなってきましたが、滑ってるときの感覚はどのように変わってきましたか?
エマ(以下、E):小さいときと違って、滑ってたらめっちゃ流れに乗ってるっていうか、スピードがめっちゃ出る。そういうところが変わってきてます。
SOS:逆に、むずかしくなった部分は?
E:大きくなったからむずかしいってことはなくて、やりやすくなってます。パワーがついてきてるから。たとえば、今までやったら勝つためにはコンビネーションの流れのなかでやっていかなダメだった。でも今は、技をやったあとでもスピードが出てて、一つひとつの技がやりやすくなってます。

SOS:この先、もっと体が大きくなったらどうなると思いますか?
E:どうやろ。もしかしたら、900※1でまわるのとかがちょっとだけむずかしくなるかもしれないけど、たぶんそれもあんまりないと思います。
SOS:900は、どんなところがむずかしくなりそうですか?
E:わからんけど、予想っていうか。たぶんならないと思うけど、大きくなってったら、回転のときに体を小さくするのがちょっとむずかしくなるかもしれないなって感じです。
SOS:竜平さんはどう思いますか?
竜平(以下、R):今エマが言ったみたいに、体が大きくなって、やりやすくなってることのほうが多いと思います。小さいときは100パーセントの力を出さないと技ができなかったんですけど、今は筋力も多少ついて背も伸びたので、60パーセントの力でも踏み切れたり着地できたりする。そこはすごくやりやすくなってます。ただ、体重が増えているぶん、体への負担もちょっと出てきてるのかなとは感じます。
※1 空中で体とボードを一緒にお腹側へ2回転半させるトリック。

SOS:体への負担は、どんなときに感じますか?
R:着地のときですね。膝もそうですけど、どちらかというと太ももにすごく負荷がかかる。あと、ふくらはぎにも。そこらへんのケアはけっこう気をつけてやってる感じですね。
SOS:練習することと同じように、ケアも大事なんですね。
R:はい。練習を始める前に柔軟運動をきっちりさせています。終わったあとも体をちゃんとほぐして、家に帰ってからもストレッチを行う。そこはかなり重点的にやってます。
E:体が大きくなると体重が増えるぶん負担もあるし、たぶん硬くなっていくから、軽くグリっただけで大怪我になっちゃうかもしれん。だから今パパが言ったみたいに、家に帰ってお風呂から上がったらぜったいに柔軟をして、体をやわらかくするようにしてます。

SOS:最近の練習のペースを教えてください。
R:バーチカル競技は夏場がシーズンになるんですけど、Xゲームズ前は週7で、練習時間は短めの3時間ぐらいにして、できるかぎり毎日滑るようにしてますね。
SOS:以前、同じ技を何回も繰り返すのではなくて、変化をつけながら練習していると話していました。今も同じようにやっていますか?
R:今も変わらず、その感じでやってます。
SOS:そのころとくらべて、新たに取り入れた練習方法はありますか?
E:高さを上げたりとか、メインのトリックも前後のトリックも、全部同じ高さをキープしてやるっていうのもやってます。
SOS:世界のトップスケーターと競うようになって、竜平さんが練習で意識するようになったことはありますか?
R:海外のトップスケーターがコンテストでやってるルーティンをそのままやってみること。同じ構成をやってみると、その選手のことが少し理解できるのかなと思って、意識的に取り入れるようにしてます。

SOS:練習メニューはどうやって決めているんですか?
R:基本的な練習メニューは、ほぼ全部僕が考えて、エマに伝えてやってます。つねにアップデートはしてるんですけど、急に大きく変えることはせずに、新しい技を取り入れたりしながら、少しずつ変化させてます。新しいトリックに関しては、エマと「なんのトリックをする?」って相談しながら、ふたりで決めていきます。
SOS:エマくんがそのときやりたい技と、パパが「練習しよう」と言う技が違うときはありますか?
E:それはあんまりないな。もしそうなったら、やっぱりパパが言ったやつをやる。そのほうが、まずやり方がわかるし。いつも新しいトリックをやる前に、パパがどういう感じにやったらいけるかって調べてから「やってみ」って言うから。パパが調べてきたやつのほうが早く乗れるかなって思って。
SOS:竜平さんは、どんなふうにトリックを研究しているんですか?
R:映像を探して、すごく調べます。でも世界でもひとりしかやってないようなものは情報量が少ないので、やっていきながら研究するしかないんです。いろんな人がやってるオーソドックスなトリックは、スケーターの映像を集めてフォルダにまとめて、エマと見ながら「どうする? こうする?」みたいな感じでやってます。

R:ただ、練習時間のなかでも、本人が仲間と好きに滑る時間はけっこうあって。そこで、僕が知らないようなトリックを友だちと一緒に考えたり、インスタで見たやつをバーってやってたりすることもありますね。
SOS:友だちと自由に滑るときはどんなことをやってるんですか?
E:自分がやってみたい技とか、「これなら早く乗れそうやからやってみよう」っていうのを、友だちとどっちが先に乗れるか、対決しながらやってます。
SOS:そうやって自由に滑るなかで覚える技もけっこうあるんですね。
R:そう言われると、そうですね。2~3割とか。今はだんだん体が大きくなってきて、2~3年前よりも自分の思いどおりに体を動かせるようになってるので、映像を見てパッとやってみたら数回でできたっていうトリックもあれば、20~30分がんばったらできたとか。練習の合間にちょっとずつやってたら、気づいたらできたみたいな。そういう技もけっこう多いですね。

R:ちょうど昨日もそういうことがあって。Xゲームズで一緒に戦ってたJDサンチェスっていうスケーターが、サクラメント大会のベストトリックでフェイキー720ヒールフリップボディバリアル※2っていうすごくむずかしい技を見せたんです。それを会場でエマと一緒に見て「すごいな」って話してて。昨日は練習が終わってから、思いつきで「ちょっとやってみようか」みたいなノリでエマがやってみたら、30分かからないぐらいで成功して。ちょっとうれしかったですね。
SOS:JDサンチェスはその技で金メダルを獲ったんですか?
R:いや、メダルは獲ってなかったと思うんですけど、世界初のトリックだったので、順位っていうよりも、大会で見て大きな衝撃を受けた技だったんです。それで印象に残ってて「やってみようか」みたいな。
E:4位とか5位やった気がするな。
SOS:エマくんは会場でその技を見たとき、どう思いましたか?
E:まずフェイキーで720っていうのもむずいんですけど、それにフリップを入れるっていうのを誰もやってなくて。前に「そんなんできたらやばいな」って思ってたんです。それをJDサンチェスがやってて、衝撃を受けた。
SOS:実際にやってみる前から「できそうだ」と思えたんですか?
E:うん。360度まわるバージョンはできてたから。見た目がダイナミックでけっこうむずかしそうやけど、「いけるかな」みたいな感じでやったんです。やってみたら体に合ってて、意外とすぐできました。
SOS:動きのイメージが頭のなかにあったんですね。
E:うん。そのイメージがあったから、最初はとにかく蹴ってまわして、逃げるみたいな感じでやって。そうやってるうちに頭のなかでもっとイメージがつくれて、「これならできるな」って思った。
※2 通常とは逆向きに滑って踏み切る720度の回転技に、かかとで蹴ってボードを縦軸に1回転させる動きと、ボードとは別に体をまわす動きを組み合わせたトリック。

POSTED : 2026-09-18